
なんか…ヘトヘトに消耗しました。日曜仕事のあとフジタの膨大な作品を見たってのもありますが,御舟は2009年にたっぷり見たし御舟だけじゃないしと軽く考えてしまって,むしろどっぷり同じ作家に浸るより比べる,相対化って感じるより考えてしまうのかも。
いつも選定が気になる最初の作品は御舟『牡丹花(墨牡丹)』。技術の凄さがキャプションに書かれてたけど,黒い花弁は一通り見た後じわじわ来ました。前回ももちろん見てるのですけど,ぶらぶら美術・博物館で詳しく見たあとだったからかも。山下裕二先生の「冷たさ,心の中に闇がある。怖い,ゾクゾク感がたまらない。単に綺麗な絵じゃない,暗さ,背筋の寒くなる迫力」にもうんうんと頷きました。
『牡丹花』のあとはしばらく御舟以外が続きます。春草『雨後』の朦朧体は手前にあるのに影のようなクッキリした黒い鳥群があってこそだなあ。観山『朧月』も朧な月はやはり笹が引き立てる。
実は大観はあまりピンと来ないんですが『燕山の巻』のやはり建物はクッキリしてるのが面白い。北京懐かしーい。『叭呵鳥』はカワイイ。
しかしこうして他の作家の中で改めて見ると御舟は違う! 本当に不思議だ。精微で緻密で,もちろん観察力や写実力というか再現力に間違いはない。でも描かれたものには現実を突き放した達観を感じる。シュルレアリスムではなくて,うーん?
『灰燼』を西洋絵画の誰かに似てるとずーっと考えたんですが…キュビズムぽくないですか? 山下先生の云う冷たさ,つい先日見た栖鳳の暖かさと比べちゃうのかな。どちらも大好き!
小茂田青樹『春雨』を真ん中に御舟『桃花』『柿』の配列がとても考えさせられた。小茂田の「理想化することが強い。君は絵を作りすぎる」という言葉が御舟に「真を掴もうとする意識,楔となった」という。

そして次に目を向けると大きな『翠苔緑芝』ですよ!これ前はよくわかんなかったんだけど,御舟の抽象性ともいえる特徴がとても出た作品なんじゃないかなあ。ひとつひとつの技法が金地の上に並んだコンポジション。
なのでいつも見た後にカフェでいただく和菓子は,このモチーフの「緑陰」にしました。すんごく頭使って見てしまったので甘味がうれしい。
画家が何を考えているかを知るべきなのか切り離して考えるべきなのか難しいところですが,御舟の言葉はとても深い,「私はもっと本当の美を知らなければならないと思う」。“新しい日本画への挑戦”は単に技法ではないが別の技法により描きたいものが現出できるのではと。

焚き火をおこし蛾を集め観察写生し,その上で昇華したもの。そのときの御舟の中の炎と闇の発露。だからこそ二度とは描けないのではないか…。未完の作も絶筆や遺作ではなく,まだまだ挑戦の途上でしかなかったのでしょう。無念〜。
今回の特製和菓子は『炎舞』モチーフの新作「ほの穂」とにしようかと思ってたのですが,次回また出してくれるかなあ。懐紙にちゃんと蛾が描かれていたのですね。
展覧会用の図録はないそうで,持ってなかった「ザ・ベスト・オブ山種コレクション」を買ったのですが,2009年の御舟のハードカバー図録が見当たらないので聞いてみたらはもう在庫ないんですって。再販すればいいのに〜。っても採算厳しいそうな豪華な作りでしたが。
他の御舟以外も面白かった。特に前田青邨『腑分け』はちょっとレンブラント? 同じく青邨『大物捕』(平家かと思ったら義経だった),『三浦大介』(三浦義明の老体),前にも見たけど安田靫彦『平泉の義経』秀衡は坊主…と『平清盛』を彷彿とさせる…いや源氏ばっかでした失礼。あ,御舟『白芙蓉』があった!違…。